ロロ『校舎、ナイトクルージング』

(「ケトル」2016年2月号に掲載)

 学校に幽霊が出るらしい、というので高校生男女3人が真夜中の教室に忍び込んで心霊ツアーを敢行。 そこで遭遇したのは「お化け」!と思いきや謎の不登校女子で、彼女は毎夜教室のあちこちに盗聴用レコーダーを仕掛け、前日のぶんを回収していたのだった.....。
 胸キュンな設定と物語、魅力的なキャラクターとそれを生き生きと演じる俳優、何かもがキラキラしている。しかも、そんなライトでキュートな見かけの下にはコアな演劇的企みが。完璧にハートを持っていかれた。
 『校舎、ナイトクルージング』は、高校を舞台とした連ドラならぬ連続演劇「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校」、その第2話。演劇で「続きモノ」というのは、ありそうでなかったアプローチだと思う。もちろん単体でも十分楽しめるように作られているが、これ、前回の上演で描かれたある一日の、その日の夜の話なのだ。ただし新キャラと入れ替わりで前回の登場人物の半分は出てこない。いや、変わった形で登場する、というべきか。
 件の不登校女子が昼間の教室の声・物音を録音(フィールドレコーディング!)するのは、真夜中の教室でそれを再生して、クラスメートたちの学校生活を想像するためだ。あたかも透明になった自分がその時この場所にいるかのように。つまり、その想像のなかの彼女は昼間の教室の「幽霊」!
 そして観客にとっては、舞台上でその音・声が再生される時、今日の昼間の教室での出来事=前回の上演が「再生」される、ということだ。とりわけ前回を観た者には、今この瞬間二つの上演=時間が二重写しになって起ち上がっている、と感覚されるのだ。(前回登場した)見えない登場人物たちの笑い声やざわめき。それもまた「幽霊」たちだ。
 さて、「結局、お化けの話じゃないのね」と思ってたら、出ました、お化け。しかも「見えちゃう系」のお化け(って何じゃそれw)。その子は昔この「2年6組」の同じ教室に通っていた高校生の幽霊だという。ここでもまた、現在と過去が二重に並存している。しかも、お化けちゃんと仲のよかった楠木くんは今の2年6組の同じ机にもいる!? そういえばあいつが話してるとこみたことないよね、幽霊みたいな存在....って言われてる楠木。
 考えてみれば、いつもいるのに存在感の薄い子も、学校へ来ない不登校の子も、他の生徒から見れば幽霊みたいなもので、逆に「見えちゃう幽霊」は普通の女子高生と「見た目」は変わらない。その両者の交換可能性。
 こうして散りばめられたモチーフが仕掛けるのは、一つの場所の二つの時間そして実在/非実在のレイヤーの重ね合わせ、いわばパラレル・ワールドのアクロバティックな重ね合わせだ。
 けれど、今ではない時間を想像する(させる)、ここにはいないものを見(せ)る、というのはじつは「演劇」の最も根源的な仕事ではなかったか。その意味では極めて真っ当なザ・演劇。だがしかし、それよりも何よりも「早く続きが見たい!」状態の私なのだった。