複雑な気持ちになり、落ち込む。

丸ビルで「東京コンペ」ダンス&パフォーマンス部門の最終公開審査「ダンスバザール大賞」。「東京コンペ」の美術部門「アーバンミュージアム大賞」のほうで、芸大の僕の授業も取っている学生が優秀賞に選ばれているので、先にその谷上周史くんの作品を見ることにした。1つは7Fのホールのすぐ出たところにあるパフォーマンスの記録ビデオで、本来はパフォーマンスをやるべきところ、警察の関係でヘタレな主催者サイドの自主規制により、応募時に提出した映像記録の展示となったらしい。作品は、街中でインストラクションの書かれたカードを配り、それを見た人が指定されたアドレスに何かを携帯でメールする。別の場所ではエレファントマンのようなかぶりものをしたホームレス男がプロジェクターを抱えて彷徨している。実は、そのくだんのメールはコイツが受信し、そのメールの短い文章がプロジェクターから道路やビルの壁や向こうから歩いてくる人に投影される。そういうパフォーマンス。いいね。さらに彼はもうひとつ作品を出していて、こちらは通りも斜め向かいの富士ビルにある。こちらもメール・アートとでもいうべきもので、これまたヘタレ&嘘つきの主催者によって計画が変更されてしまったということだが、本来は丸ビル内のトイレから指示を見た見知らぬ人がメールして、それをトイレのタイルとトイレットペーパーで作ったオブジェが受信して、プリントアウトして「排泄」するという仕組み。丸ビルのトイレに張り紙等が出来ないので、展示スペースのみでしかメールが打てないことになってしまっている。これはヒドい。ほんとに「貸しビル屋」っていうのはショーモナイね。森といい。やらせてやってる感が強い。
さて、話をダンスコンペに戻す。企画意図としては「異種格闘技」的なコンペ、だそうで、それはよい。問題は2つある。一つは、いろんなジャンルからノミネートされるとして、その個々のレベルはある程度揃えるべきではないか。また、審査は個々のジャンルの表現としてのクオリティで評価すべきではないか、ということ。暗闇の中、蛍光スプレーで絵を描くというパフォーマンスが出てきたが、こんな素人芸をただ単に珍しいから、というだけで選んでいいのだろうか。これはまあさすがに賞はとらなかったからいいが、芸大の学生の衣服パフォーマンスもまた学祭での発表のレベルで、何でこれが三浦雅士賞なわけ?さらに、ヒップホップのチームが出てきて、それ自体はいいことだが、そのヒップホップとしてのレベルがどうってことないのに優秀賞20万円あげっちゃっていいのか?しかも審査員の伊藤キムは「世界に出ても通用するレベル」だと「知ったか」する。ありえない!
もう一つの問題は、そうやっていろんなジャンルから応募をさせておいて、同じ土俵にたたせながらも、最終的には「コンテンポラリー・ダンス」に大賞を出してしまう、という構図。出来レースとまでは言わないが、ああやっぱそうなるわけね、という感じ。だって、審査員のうち三浦さんとキム君はコンテンポラリー・ダンスの専門家(いちおう)でありそれ以外のジャンルの素人、残るケラはこのコンペが対象とするジャンルすべての素人である。全員がリアル素人か、さもなくば各ジャンルから一人づつ(ストリート系、アート、お笑い、演劇というように)という態勢でやるべきなのではないか。
さらに言えば、結局この賞はどういう基準でどういう性格の表現を評価するコンペであったのかを、結果から判断するならば、建前としては「なんでもアリ」なので、レベルを無視してもとにかく各ジャンルから均等に賞を出すような無理やりな配慮がなされ、でも、大賞はいきなりクオリティを重視しなけりゃいけないようなプレッシャーが働き、審査員が自分の判断に自信がもてる範囲からしか賞を出せない、そういうものであったと思う。
あとは、個人的な見解になるが、まず、岡本真理子の『まばたきくぐり』はもちろんいい作品だし、当日のパフォーマンスもかなりの出来であった。つまり、大賞の「資格」はじゅうぶんあると思う。ただ、僕は個人的にはこの賞はクオリティよりはデタラメ度を重視するのではないかと誤解していたのだ。で、「身体表現サークル」が大賞、というのもアリなんじゃないか、と思ったのだ。その場合は基準がより明確に「デタラメ」「面白」度ということになるし、それだと他の出場者も「ああ、アレが大賞なのか、じゃ、まーショーガナイかー(苦笑)」という妙な納得も得られる、と。そして、間違っても「初期型01-04:ワキの匂いをワキガという」ということはあり得ない。このグループが、身体表現サークルをさしおいて優秀賞20万円というのもまったくおかしな結果で、この点は一番納得がいかない。これの何を評価するというのだろうか。ワキをブッブーと鳴らす、これ自体はくだらなくて嫌いではないのだが、それをすべて「笑い」の道具にして、構成していく。これをほんとの「色モノ」というのである。オナラでリズムを刻むとか曲を演奏する、そういう類い。だいたい下品でしょ。しかも、10分やらなきゃいけないから、途中で、「パロディ」も入れる。女性がパドブレしながら脇で音を出して横移動していく、とか、いかにも「ユーモア・イン・ダンス」的な。こういうものと「身体」は雲泥の差がある、というか、ジャンルが違う。「初期型」は電撃ネットワーク的な「エンタメ」のお笑いパフォーマンス。アートの振りをするな。これが評価されるのは、完全にエンタメじゃないと誤解されるからでしょう。エンタメだったらクオリティが問われるし。でも、本質はそっちにある。あー、世間ってやつは。あと、康本雅子も優秀賞だったが、これもよくわからない。いや、パフォーマンス自体はスゴクよかった。ダンスで勝負みたいな潔さがあり、設定とか衣装とかネタとかそういうものが一切ない、ストレートな「ダンス」で、でもものすごくグルーヴィな踊りだった。しかもフレーズ一個一個に康本印が刻印されており、オリジナルなものになっている。これは本当の「ダンス好き」にはたまらないものだが、これだけノーコンセプトだと、絶対評価されないと思った。でも、優秀賞。いかなる判断でそうなったのか、わからん。